物納による納税対策?

国税は、金銭で納付することが原則ですが、相続税に限っては、納付すべき相続税額を納期限まで又は納付すべき日に延納によっても金銭で納付することが困難な理由がある場合には、申請により、その納付を困難とする金額を限度として、一定の相続財産で納付すること(物納)が認められています。

しかし、多くの相続人等は物納に対して、次のような誤解を抱いております。すなわち

① 物納は困難で、なかなか認めてくれない。
② 相続した財産の中に、更地と貸地がある場合には、貸地は物納できない
③ 相続財産に多額の現・預金がある場合には物納できない
④ 上場株式や投資信託等はすぐに売却・換金できるので物納できない
⑤ 未上場株式等は物納できない 

 では、実際に物納が困難かどうか、データから検証してみましょう。

 国税庁が公表している最新のデータは、平成元年~平成21年までで、そのデータによると、前年以前の未処理件数も含め、物納申請件数111,137件で、そのうち許可されたのは、77,707件(約70%)、取り下げは32,469件(29.2%)、却下は471件(0.4%)となっています。データでは、約7割が申請許可されているため、決して低い数字ではないことがわかるかと思います。

 また、未処理件数は、490件で、原則として3か月以内に申請から物納の可否まで審査することとなっているため、処理についてもスピーディーに行われています。しかし、物納手続は多くの労力と時間を要することは否めません。そこで、物納に対する誤解を少しでも解消するために、簡潔に物納制度について解説したいと思います。

物納の要件等

 租税は、金銭での納付が原則ですが、相続税については、金銭納付の例外として、一定の相続財産による物納が認められています。物納の許可を受けるためには、次に掲げるすべての要件を満たしていなければなりません。
<物納の要件>
① 申請金額が延納によっても金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること
② 申請書及び物納手続関係書類を納期限まで又は納付すべき日に提出すること
③ 
物納適格財産であること

<物納申請財産の選定要件>
① 物納申請者が相続により取得した財産で日本国内にあること
② 管理処分不適格財産でないこと
③ 物納申請財産の種類及び順位に従っていること
④ 物納劣後財産に該当する場合は、他に適当な財産がないこと
⑤ 物納に充てる財産の価額は、原則として、物納申請税額を超えないこと

《ポイント1》資産の組換え

 物納は金銭納付が困難であることが要件のため、相続財産や相続人固有の財産に、物納許可限度額以上の現金や預貯金がある場合には、物納が認められないこととなりますので、遺産分割に際して物納申請予定者はこれらの財産を相続しないことや固有の財産については事前に資産の組換えを行っておくことが必要となります。

《ポイント2》予め物納申請財産を決めておく

 物納には、物納適格財産、物納不適格財産及び劣後財産があり、不動産も例外ではありません。そこで、物納予定不動産が物納適格財産に該当するか確認しておく必要があります。自用地はどうなのか、貸宅地はどうなのか、など。いずれにしても原則として、物納申請財産の選定は相続人に委ねられているので、相続に強い専門家に事前に確認することが肝要です。

《ポイント3》物納手続きの明確・厳格化

 平成18年度税制改正で物納手続きの明確化が図られ、審査がスピーディーになった反面、担当官の裁量の範囲が狭められ、納税者にとって厳しいものとなりました。特に提出期限は厳格化されましたので、相続発生後に遺産の把握から着手し、遺産分割協議を行い、さらに物納申請書類の準備をすべて完了させるのは、非常に困難な作業といえます。

 そのために、生前から物納の選定だけでなく、物納適格財産になるよう準備することが必要です。

《ポイント4》延滞税が課税

 平成18年度税制改正で、物納申請を申請者が任意で取り下げた場合には、延滞税が課されることに改正されました。利子税の割合は、3.6%~5.4%※、延滞税は、納期限の翌日から2か月を経過する日までが年「7.3%」と「前年の11月30日の基準割引率+4%」※のいずれか低い割合とされています。

 そのため、物納から相続財産の売却によって現金納付へ変更したいと考える場合には、取り下げ方法により利子税のみで済む場合と、延滞税も課される場合があり注意が必要です。
 

※ 平成25年度税制改正により、平成26年から利子税は特例基準割合に、延滞税は特例基準割合+1.0%と改定されます。(特例基準割合は現行 概ね2.0%程度)

《ポイント5》非上場株式の物納

 非上場株式の物納においては、非上場株式の売り出しについて買受意向が随時契約適格者から示されているもの以外は、速やかに(5年以内)一般競争入札により処分するとされています。 

 そのため、仮に物納によって相続税の納税問題をクリアしたとしても、第三者に競争入札で売却されると何かと不都合なことが起こることになると予想される場合には、結局、随時契約適格者が買戻すことになります。しかし、評価は売り出し時の相続税評価で、また経営陣は原則として従前のままなので、この仕組みを利用することも含め、総合的に納税方法を検討しておく必要があります。 

 なお、随時契約適格者には、発行会社も含まれるため、金庫株化することもできます。金庫株化には会社法上のルールが適用されるほか、買取り資金の調達も必要です。

 

このコラムは、平成25年11月25日時点の法令により作成しているため、今後の法改正により異なる取り扱いとなる場合があります。
また、専門的な内容を判り易くするため、敢えて詳細な要件などを省略していることもあります。本コラムに記載されている内容を実行する際は、当事務所までご相談下さい。