「遺言により会社に対する貸付金債権を放棄したいのですが・・・」

Q:遺言により会社に対する貸付金を放棄したいのですが、課税関係が心配です。

私は会社を経営しておりますが、業績が思わしくなく、同社に多額の貸付金があります。
同社は、ようやく資産超過の状況で、とても私に返済する余裕はございません。
先日、同業の社長から、会社に対する貸付金も、基本的に相続財産を構成すると聞きました。
本当なのでしょうか?
本当であれば、私が亡くなったあとの会社への支援と、相続財産になるのを避けるために、債権を放棄する旨の遺言を作成しようと思いますが、虫のいい話なので落とし穴があるような気がして心配です。
なお、経営している会社の株式の大半は私が所有しておりますが、兄弟(推定相続人ではありません)も少し所有しております。このような状況ですがアドバイスをお願いします。

A:
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江東区門前仲町の税理士 渋谷広志(しぶやひろし)です。




ご質問ありがとうございます。
ご相談者様がお聞きしたとおり、会社に対する貸付金も、原則として相続財産を構成します。そして、ご懸念のとおり債権放棄した場合は、次の課税関係が生じる可能性があります。

1. ご相談者様経営している会社(今後「A社」といいます。)は、ご相談者様の相続開始があった事業年度において、ご相談者様の債権放棄による受贈益について、法人税の課税を受けます。
2. ご相談様の遺言による会社に対する債権放棄による直接の受遺者は法A社であり、それによる課税は1に記載のとおり法人税が課されているため、原則として個人には、債権放棄そのものには相続税が課されることはありません。
3. ただし、その債権放棄により、A社の株式の価値が上昇すると、その個人株主は、ご相談者様からその価値増加に相当する利益金額を遺贈により取得したものとみなされて、相続税が課税されます。

それでは、これらにについて、解説します。



1. 法人には原則として相続税が課税されない

相続は、相続又は遺贈により財産を承継します。
個人への承継方法は、相続、遺贈の両形態がありますが、法人には遺贈の形態しかありません。
法人には有償、無償に関わらず、その経済的利益には法人税が課されることになっているため、相続税は課税されません。
したがって、債権放棄による直接の利益は、A社に法人税が課されることで清算されます。



2. A社価値の増加により個人株主に相続税が課される場合も・・・

しかし、その債権放棄により、A社の資産状態が回復し、例えば債務超過から資産超過になった場合や、そもそも資産超過なので債権放棄をした場合は、A社の株式価値が増加することになるため、その株式価値の増加による利益を受けた個人に対して、A社に対して債権放棄をしたご相談者様から遺贈による利益を受けたとみなして相続税を課税することになっております。



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このコラムは、2019年11月30日時点の法令により作成しているため、今後の法改正により異なる取り扱いとなる場合があります。
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