贈与の時期はいつ?

不動産は、登記することが所有権を確保するもっとも有効な手段といわれています。
では、8年前に公正証書による不動産の贈与契約書を作成しながら、8年間所有権移転登記をせずに、その後贈与を原因とする所有権移転登記した場合、いつの時点の贈与と考えられるでしょうか?
8年前でしょうか?それとも移転登記をしたときでしょうか?
参考となる判決があるので検証してみたいと思います。 

事案の概要

この事案は、父から子への贈与について、贈与が行われた時期は、贈与契約書を締結した昭和60年か、それとも所有権移転登記をした平成5年かで争われたもので、時系列で記すと次のとおりになります。
【経緯】
 (1)父は不動産Aを所有していた。
 (2)父は子に昭和60年3月14日に、次のような不動産贈与契約公正証書を作成した。

第1条 昭和60年3月14日、父は、その所有にかかるA不動産を子に贈与し、子は、これを受諾した。
第2条 父は、子に対し前条の不動産を本日引き渡し、子はこれを受領した。
第3条 父は、子から請求があり次第、本物件の所有権移転の登記申請手続をしなければならない。
第4条 前条の登記申請手続に要する費用は、子の負担とする。

 (3)子は、平成5年12月13日、父からA不動産について昭和60年3月14日の贈与を原因として、所有権移転登記を受けた。
 (4)子は、昭和60年又は平成5年いずれも、本件不動産の贈与について贈与税の申告をしていない。
 (5)税務署長は、平成7年7月5日付で子に対し、平成5年分の贈与税額を1億円余りとする決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分をした。
 (6)子は、贈与時期は贈与契約書を締結した昭和60年であり、指摘を受けた平成7年には贈与税の申告について時効が成立しているため、賦課決定処分は不当として裁判に訴えた。  

判決の要旨

不動産の贈与の場合、所有権移転登記を経由して所有権を確保すれば足り、公正証書は、登記のみでは明らかにならない契約内容が存在するときに作成するのが通常であるところ、本件の場合、

①公正証書を作成しなければならない格別の契約はなく
②贈与契約書が作成された昭和60年に登記を不可能とする理由はなく
③父は贈与税を免れる目的で公正証書を作成した旨申述し
④所有権移転登記をいつにするかは、父の意思にかかっていた
⑤子はA不動産を自由に使用・収益・処分できなかった

ことから、公正証書の作成の意義は贈与税を免れるためだけであり、公正証書による贈与の意思はなかったと認定し、書面によらない贈与と判示し、父から子への贈与は実際に所有権移転登記手続きが行われた平成5年12月13日に贈与の履行があり、子が同日に取得(民法第550条)したと結論づけている。

判決からわかること

本件では、贈与は平成5年12月13日に贈与があったと結論づけています。
結局、贈与は、
 ①受贈者への所有権移転などの第三者への対抗要件の具備
 ②受贈者が受贈財産を自由に使用・収益・処分できること
そして、ここでは判示されていませんが、
 ③実際に贈与があった年に贈与税の申告を行っておく
ことが、肝要です。

安易に、契約書を公正証書にするだけで贈与が成立しているとすることは、後々課税上のトラブルに発展しかねませんので、実際に贈与する際は、その履行まで含めて専門家に相談することが肝要です。 

渋谷広志税理士事務所のサービス

弊事務所は、案件に対して、法律は基より判例や事例も含めて検討し、お客様にとってベストな提案するよう心掛けています。贈与に限らず実際に行動に移す際は、シミュレーションが大切ですのでセカンドオピニオンとしても当事務所をご利用ください。


このコラムは、平成27年4月25日時点の法令により作成しているため、今後の法改正により異なる取り扱いとなる場合があります。
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